フランスの哲学者、批評家であるロラン・バルトの高弟アントワーヌ・コンパニョンが、二人の間で交わされた書簡を読み返しながら、師バルトを振り返る。バルトが亡くなるまでの5年間は、写真に関する著作の構想の頓挫、母の死、そこからインスピレーションを受けた『明るい部屋』の執筆、交通事故、そして死と、非常に重要な出来事が重なり、まさにその時代に師事し、書簡を交わしたコンパニョンの記憶は非常に興味深い。
バルトの著作のほとんどが注文によって書かれたのと同じく、この本も、バルト生誕100周年を迎える2015年に、彼が亡くなった年齢と同じ65歳を迎える弟子のコンパニョンが、要請を受けて書き出すところから始まっている。会うと必ず泣き言を言い出し、身体の不調を訴えるバルトのように、本書の冒頭で、コンパニョンも気分が乗らず、逡巡している様子をだらだらと綴る。読み進めても、肝心のバルトの書簡は最後まで引用されずに終わる。これはまるで写真本のようで、最後まで肝心の温室の写真が出てこない、師バルトの『明るい部屋』の転倒を彷彿とさせる。このような符合は至るところに表れる。師の評論や手法に正直に疑義を唱え、バルトとは一線を画し、独立した存在として向き合ってきたコンパニョンだが、しっかりとバルトの薫陶を受け、その基本的な精神を刻印されている姿からは、往時のバルトが垣間見えて、どこか微笑ましい。「バルトによらないバルト伝」というこの迂回こそが、もっともらしさを伝えるのは、それもまたバルトらしいといえるのだろうか。
いつも早食いだったバルトの記憶は、彼のサナトリウム時代の記憶へとつながり、その記憶はまた彼の体調不良や死因へと揺り戻され、結びつけられる。過去はただの過去ではなく、それを思い出す者の新しい視線によって新しく照射され、捉え直される。本書は至るところで、このような繋がりと再構築が見られ、ただの過去の伝記ではない、創造的な物語のようでもある。
http://www.msz.co.jp/book/detail/08563.html
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