動物写真家・前川貴行が、自らの半生を振り返り、どのようにして動物写真家となり、何を感じながら動物と向き合って写真を撮り続けてきたかを語ったフォトエッセイ。ホッキョクグマ、ハクトウワシ、オランウータンなど、各節ごとに、自分が被写体とした動物の撮影体験を綴っている。
そんな中でも、非常に印象深いのが、アラスカの大地で大移動をするカリブーの撮影記である。地味なカリブーにはもともと興味が湧かなかったというが、アラスカを取材するうちに、南北数千キロの移動を毎年繰り返し、そこに暮らす人や肉食獣の生活の糧となるカリブーこそがアラスカの生態系を代表する生き物として、浮かんできたという。広大な大地でその群れを探すのは非常に難しい幻の存在であること、時間とお金をかけないと撮影できず、また1人の力ではどうにもならない難しい挑戦であること、また自身が憧れ、尊敬した写真家・星野道夫のメインテーマであったことなどから、カリブーを撮影することは、写真家の夢となった。それは、動物写真家になるという夢を叶えてから10年ほど経って、ようやく見えてきた新しい夢であったという。
撮影はやはり困難を極め、カリブーを求めて、果てなき原野をさまよい続け、無力感に苛まれる日々となった。しかし、望みを絶やさず、辛抱強く撮影を続けた先に、ついにカリブーの群れと出会う幸運を手にする。しかし、その群れも蜃気楼のようにあっという間に移動し、ツンドラのゴーストと呼ばれる所以をまざまざと見せつけられる。写真家は、ついに夢を叶えたが、夢を追いかけるうちに、夢にも思わなかったような数々の貴重な体験をした。そして、今度は越冬するカリブーを見てみたいという、もう1つの新しい夢を見るようになる。カリブーが移動するのが目には見えない何かの力によってだとすれば、写真家もまたその力に引きずられたのかもしれない。カリブーの旅が続く限り、写真家の夢も続く。星野道夫を夢見た前川貴行の夢を、またいつか新しい写真家が夢見る日がくるであろう。このカリブーの撮影記は、「動物写真家という仕事」がどのようなものであるかを、雄弁に物語っている。
https://www.shinnihon-net.co.jp/general/detail/name/%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%AE%B6%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E4%BB%95%E4%BA%8B/code/978-4-406-06162-9/
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